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東京高等裁判所 平成8年(行ケ)93号 判決 1997年10月29日

東京都港区芝大門1丁目13番9号

原告

昭和電工株式会社

代表者代表取締役

村田一

訴訟代理人弁理士

矢口平

寺田實

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 荒井寿光

指定代理人

青山紘一

後藤千恵子

小川宗一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成5年審判第11235号事件について、平成8年3月18日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、名称を「飲料容器中の飲料用の二段式伸縮自在なストロー」(出願時の名称は「二段式伸縮自在な吸引用パイプ」)とする実用新案登録第1928120号考案(昭和58年12月28日出願、平成3年1月7日出願公告、平成4年9月9日設定登録。以下「本願考案」という。)につき、平成5年6月4日、その明細書を訂正する旨の審判の請求をした(平成6年12月14日請求公告、実用新案登録審判請求公告第325号、以下、この請求に係る訂正を「本件訂正」という。)。

特許庁は、同請求を、平成5年審判第11235号事件として審理したうえ、平成8年3月18日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年5月13日、原告に送達された。

2  本件訂正の内容

(1)  明細書の実用新案登録請求の範囲の記載の訂正

実用新案登録請求の範囲に、次の下線部分を加え、以下のとおりに訂正する。

「大径のパイプと、前記大径のパイプの中空部内に挿入された小径のパイプとよりなる飲料用合成樹脂製ストローにおいて、大径のパイプと小径のパイプの外観を夫々異なる色調にしたことを特徴とする飲料容器中の飲料用の二段式伸縮自在なストロー。」

(2)  明細書の考案の詳細な説明の記載の訂正

「この飲料用ストローの材料としては、合成樹脂、紙などが挙げられる。」(平成4年12月17日発行の公報「実用新案法第13条で準用する特許法第64条の規定による補正の掲載」訂4頁21行)を、「この飲料用ストローの材料は、合成樹脂である。」と訂正する。

3  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本件訂正後における実用新案登録請求の範囲に記載されている事項により構成される考案(以下「訂正後考案」という。)は、昭和57年9月28日日本食糧新聞社発行「日本食糧新聞」第6面(以下「引用例1」といい、そこに記載された考案を「引用例考案1」という。)及び実願昭56-139820号(開昭58-45483号)のマイクロフィルム公報(以下「引用例2」といい、そこに記載された考案を「引用例考案2」という。)に記載された各考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案することができたもので、実用新案法3条2項の規定によって実用新案登録を受けることができないものであるから、本件訂正は、同法39条3項(平成5年法律第26号による改正前のもの)の規定に適合しないものであるとした。

第3  原告主張の取消事由の要点

審決の理由中、本件訂正前の本願考案の要旨及び本件訂正の認定、引用例1の記載事項の認定(審決書4頁19行~5頁3行)、訂正後考案と引用例考案1との相違点の認定(同5頁7~12行)、二段式伸縮自在なストローを合成樹脂製とすることが引用例2に記載されているように一般的事項であること(同5頁14~16行)、訂正後考案の要旨の「異なる色調」の意義が、「同一の色であってもその色に濃淡がある場合をも含むもの」(同8頁2~3行)であることは、いずれも認めるが、引用例1の写真の認定(同5頁3~6行)は争う。

審決は、引用例1の写真の認定を誤った(取消事由1)結果、訂正後考案と引用例考案1との相違点の判断において、引用例考案1及び2に基づいて訂正後考案がきわめて容易に考案することができたと誤って判断した(取消事由2)ものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  取消事由1(引用例1の誤認)

審決は、引用例1の「写真のストローは、大径のストローと小径のストローの色が濃淡ないし異なる色を有すると認識できるものであると認められる。」(審決書5頁3~6行)と認定しているが、誤りである。

訂正後考案は、大径パイプと小径パイプの色調を異ならしめ、ストローの使用時において、使用者に二段式ストローであることを明示し、誤使用を防止するとともに、組立て作業等においても識別を容易にしたものである。換言すれば、訂正後考案における両パイプの色調は、上記の作用効果を発現しうる程度に異なることを意味している。

これに対し、引用例1のストローの写真では、大径パイプと小径パイプとにわずかな明暗の相違は認められるものの、これが色の濃淡ないし異なる色を有するものであることまでは認められず、訂正後考案における上記のような意義を有する色調の相違は認識できない。

すなわち、新聞である引用例1の原本を国会図書館で調べてみると、複写物である引用例1の写しに比べて紙質につやがなく、黄ばんだいわゆるわらばん紙的な色をしており、その結果、前記の大径パイプと小径パイプのわずかな明暗の差がやや小さく感じられる。また、引用例1の写真を詳細に見れば、小径パイプも大径パイプも円周方向に若干の明暗の差がある(ストローの長手方向にストライプが見られる。)ので、新聞の読者はこの暗い部分を陰影と感ずるはずである。そして、小径パイプと大径パイプの若干の明暗の差も、暗い部分(内側の小径パイプ)は写真撮影の照明の陰影と感じるはずである。そもそも写真において立体的な被写体の場合、程度の差はあれ陰影が現れることは通常であり、読者は無意識的にそれを前提として写真を観察しているから、写真における若干の明暗の差は、被写体に基づくものと認識されないのが通例である。

しかも、引用例1においてストローを写真に掲載した目的は、新聞の読者にストローが二段式であることを示すためであって、両パイプが色の濃淡ないし異なる色を有するものであることを認識させるためではない。そのため、引用例1の記事の中に実用新案登録出願、意匠出願した旨の記載はあるが、色調について全く触れられておらず、色調の認識がなかったことは明らかである。したがって、新聞の読者は、記事の中の二段式ストローの構造に注目し、このストローが二段式であることは認識できても、わずかな明暗の相違は漠然と目に止まる程度であり、訂正後考案におけるような意義を有する色調の相違までは認識できるものではない。

また、仮に引用例1の新聞の読者が、陰影等による明度差以上のものを感じたとしても、〓紙やプラスチックなどのような材料の相違に由来した(米国特許第3189171号明細書、甲第8、第9号証参照)程度のものと認識するはずである。大径パイプと小径パイプの色調はそれぞれ使用される材料によっても異なることがあり、その場合は色調の差異は材料の色に由来する無意識的なもので、両者を色調で強調させる積極的な意図はなく、看者も材料の相違から来る色調の差異程度と認識する。これに対し、訂正後考案は、合成樹脂という同一材料で意図的に色調を異ならしめた点で根本的に相違するのである。

したがって、審決の引用例1の写真の認定は誤りである。

2  引用例1友び2の組合わせ判断の誤り(取消事由2)

前示のとおり、引用例1の写真に現されたストローは、大径パイプと小径パイプに明暗の差は認められるが、それは写真上で二段ストローであることを示すためのものであって、使用上等における作用効果を認識させる程のものではないから、引用例1には、色調を変えたことによる訂正後考案特有の作用効果を伴う技術思想としての考案は記載されていない。

したがって、当業者は、色調を変えることについての課題あるいは作用効果についての認識がないから、引用例考案1のストローを合成樹脂製とする場合、訂正後考案と同様に大径パイプと小径パイプの色調を異なるものとすることは、きわめて容易になし得ることではない。

被告は、色調を変えたストローが提示されれば、材質の如何を問わずその色調を変えてみることは当業者の通常の創作能力の発揮であると主張しているが、色調はそれぞれ使用される材料によっても異なることがあり、引用例1には色調が若干相違しているストローが示されているだけであって、色調を変えることによる意義を看者に認識させるものではなく、色調を変えることの意義がない以上、色調を変えてみようとする起因ないし契機は生じないものである。

以上のとおり、審決が、「本件訂正後における実用新案登録請求の範囲に記載されている事項により構成される考案は、引用例1、2に記載された各考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたもの」(審決書5頁17行~6頁1行)と判断したことは、誤りである。

第4  被告の反論の要点

審決の認定判断は正当であって、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がない。

1  取消事由1について

引用例1の写真のストローでは、大径パイプと小径パイプの色彩学上の「明暗調子」が異なることは明らかであり、経験則上、当業者には、色調が異なるか、少なくとも濃淡を有すると認識できる。そもそも、大径パイプと小径パイプとの間に、原告が主張するような写真撮影の際の照明の陰影が生ずる理由はない。

引用例1の写真以外の新聞記事に、ストローの形状・構造についてのみ記載され、ストローの色調に関しての具体的記載がないからといって、引用例1の写真から色調が認識できないと結論することは適当でない。読者は、ストローの形状・構造については記事と写真に基づいて認識し、色調についてはもっぱら写真に基づいて認識するのが通常であると考えるべきである。

原告は、陰影などによる明度差以上のものを感じたとしても、米国特許第3189171号明細書(甲第8、第9号証)に示されるような材料の相違に由来した程度と認識するはずであると主張する。

しかし、訂正後考案の「異なる色調」とは、訂正明細書の「大径のパイプと小径のパイプを異なる色にする代りに、同一の色でその濃淡の異なるものを採用してもよい。更に一方のパイプは着色しないで、材料の色をそのまま生かし他方のみ着色することによっても異なる色の組合わせが可能になる。」(甲第4号証5頁16行~6頁1行)という記載からすれば、材料の相違に由来して異なる色調となる場合をも包含されるのであるから、引用例1には訂正後考案における「外観を夫々異なる色調」が示されていることに変わりはない。

したがって、審決の引用例1の写真の認定(審決書5頁3~6行)に、誤りはない。

2  取消事由2について

上記のとおり、引用例1に大径パイプと小径パイプの色調を変えたストローが提示されれば、材質の如何を問わずその色調を変えてみることは、当業者の通常の創作能力の発揮というべきであり、合成樹脂製であっても、当業者にとって色調を変えてみようとする起因ないし契機(動機づけ)と十分になるものである。

また、大径パイプと小径パイプの色調を変える意義は、訂正明細書の記載によれば、両者の識別を容易にすることができ、美観の向上を図ることも可能である、という点につきるが、識別や美観向上を目的として製品を着色することはきわめて普通に行われていることにすぎない。

さらに、実際に引用例1の写真を見ると、色調(濃淡)の違いによって大径パイプと小径パイプが明確に看取できるのであるから、引用例1からも色調を変えることの意義や利点が把握できる。

したがって、合成樹脂製ストローにおいて大径パイプと小径パイプの外観をそれぞれ異なる色調とすることは、当業者にはきわめて容易になし得たことであり、この点に関する審決の判断(審決書5頁17行~6頁1行)に、誤りはない。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立については、いずれも当事者間に争いがない。

第6  当裁判所の判断

1  取消事由1(引用例1の誤認)について

(1)  審決の理由中、本件訂正前の本願考案の要旨及び本件訂正の認定、引用例1の記載事項の認定(審決書4頁19行~5頁3行)、訂正後考案の特徴とされる「大径のパイプと小径のパイプの外観を夫々異なる色調にした」構成のうち、「異なる色調」とは、「考案の詳細な説明中の『・・・大径のパイプと小径のパイプを異なる色にする代りに、同一の色でその濃淡の異なるものを採用してもよい。更に一方のパイプは着色しないで、材料の色をそのまま生かし他方のみ着色することによっても異なる色の組合わせが可能になる。』・・・旨の記載を考慮すれば、同一の色であってもその色に濃淡がある場合をも含むものと解される。」(審決書7頁14行~8頁4行)ものであることは、当事者間に争いがない。

訂正明細書(甲第4号証)には、「このような飲料用の二段式伸緒自在なストローを、組合わせる時にも大径のパイプか小径のパイプかを直ちに見分けることが困難であり、組合わせ作業にとって好ましくない。本考案は、以上述べたような事情に鑑みてなされたものであって、大径のパイプと小径のパイプの外観を異なる色にすることによって組合わせ作業の際等における両パイプの識別を容易にすると共に、組合わされたパイプの美観の向上をはかることも可能にした飲料容器中の飲料用の二段式伸縮自在なストローを提供するものである。」(同号証4頁9~19行)、「この飲料用ストローは、大径パイプ11が赤色、小径パイプ12が白色にしてある。このように大径パイプ11と小径パイプ12とを異なった色にすることによって、このストローが二段式伸縮自在なものであって小径パイプ12を引出して使用し得るものであることを暗示することになる。又両パイプを組合わせる作業時にも識別が容易であるので好ましい。・・・上述の実施例のように大径のパイプと小径のパイプを異なる色にする代りに、同一の色でその濃淡の異なるものを採用してもよい。更に一方のパイプは着色しないで、材料の色をそのまま生かし他方のみ着色することによっても異なる色の組合わせが可能になる。この場合着色材が半分にてすむ。」(同5頁6行~6頁2行)との記載がある。

これらの記載によれば、訂正後考案の二段式ストローは、大径パイプと小径パイプとを異なる色調とすることによりその識別を図り、組み合わせの作業及び引き出しての使用を容易にし、併せて美観の向上を図ることも目的とするものと認められ、異なる色調とする実施例としては、それぞれ異なる色の組合わせとする場合と、同一の色で濃淡の異なるものとする(純色に白色あるいは黒色を加える。)場合と、一方を材料の色をそのまま生かし他方のみ着色する場合を含むものと認められる。

(2)  これに対し、引用例1(甲第7号証)には、伸縮自在ストローに関する記事が写真とともに掲載されており、「伸縮自在のストローの特徴は、一本のストローを径の大きいものと小さいものの半体二本に分けたこと。径の大きい方に小さい方を挿入しておき、使用時に挿入半体を引き出して普通のストローの長さにする。」旨の記載がある(審決書4頁19行~5頁3行)ことは、当事者間に争いがなく、また、写真の説明として、「新開発の伸縮自在ストロー。上二本は紙容器差込み端を引出す方式、下二本は吸引する端を引出す方式である」(同号証10段)と記載されていることが認められる。

さらに、引用例1の写真には、二段式伸縮自在ストロー4本が横方向に上下平行に並べられ、その背景は黒くなっており、容器差込み端を引出す方式のものである上2本については、吸引する端を有する大径パイプが白く、容器差込み端を有する小径パイプが大径パイプより暗く写っており、吸引する端を引き出す方式のものである下2本については、容器差し込み端を有する大径パイプが白く、吸引する端を有する小径パイプが大径パイプより暗く写っているものと認められる。そして、4本のストローの大径パイプ及び小径パイプの径方向には、わずかな明暗の差が認められるが、ストローの軸方向に沿って観察すれば、明るい大径パイプのうちより明るい部分と、暗い小径パイプのうち明るい部分とが、挿入する段差を介して対応しており、また、明るい大径パイプのうち暗い部分と、暗い小径パイプのうちより暗い部分とが、同じく段差を介して対応していると認められるから、ストローの軸方向に沿って大径パイプと小径パイプとの全体を比較すると、大径パイプが明るく小径パイプが暗くなっていることが明白に識別される。

以上のことからすると、引用例1の写真における大径パイプと小径パイプとの明瞭な明暗の差は、訂正後考案における前示のような「異なる色調」に相当するものと認められる。

原告は、引用例1の写真のわずかな明暗の差は照明による陰影と感じられ、新聞の読者は被写体の色調に基づくものと認識しないと主張する。

しかし、ストローのように円筒形の物体に照明光を当てて写真撮影する場合、円筒形の曲面をなしている部分が反射面となるため、曲面の変化する方向、すなわちストローの径方向に沿って陰影が形成されることとなるが、ストローの軸方向に沿っては、反射面は常に一定であって変化しないから、陰影の影響はないものと考えられる。ところが、前示のようなストローの軸方向に沿った観察結果によれば、大径パイプと例小径パイプとの段差を介して前者が明るく後者が暗くなっているのであるから、この明暗の差は、原告主張のような陰影によるものではなく、ストロー自体の色調の相違が明暗となって写真に撮影されたものと推測するのが相当である。原告の上記主張は採用できない。

また、原告は、新聞である引用例1の原本では大径パイプと小径パイプのわずかな明暗の差がやや小さく感じられると主張するが、このことを認めるに足る証拠はなく、引用例1(甲第5号証)において色調の相違が明瞭に把握できることは前示のとおりであるから、上記主張も採用できない。

さらに、原告は、引用例1の大径パイプと小径パイプに陰影などによる明度差以上のものを感じたとしても、それは米国特許第3189171号明細書(甲第8、第9号証)等に示されるように材料の相違に由来した無意識的なものと認められ、訂正後考案における色調の意義を認識させるほどのものではないと主張する。しかし、引用例1には、ストローの材料に関する記載ないし示唆はなく、引用例考案1に示された色調の明瞭な差異が、材料の相違に由来するものであるとする根拠は認められないから、原告の主張はそれ自体失当である。

したがって、審決が、引用例1の「写真のストローは、大径のストローと小径のストローの色が濃淡ないし異なる色を有すると認識できるものである」(審決書5頁3~6行)と認定したことに誤りはない。

2  取消事由2(引用例1及び2の組合わせ判断の誤り)について

訂正後考案が合成樹脂製ストローであるのに対し、引用例1にはストローの材料に関しての記述がない点で相違すること(審決書5頁7~12行)及び「二段式伸縮自在なストローを合成樹脂製とすることは、引用例2に記載されているように一般的な事項である」(同頁14~16行)ことは、当事者間に争いがない。

また、引用例1の写真のストローにおける大径パイプと小径パイプの色調が異なるものであることは、前示のとおりである。

そうすると、大径パイプと小径パイプの色調が異なる引用例考案1のストローを、引用例考案2に示されるとおり、一般的な材質である合成樹脂製として訂正後考案を想到することは、当業者がきわめて容易にできることというべきであって、これを困難とするような事情は認められない。

原告は、色調はそれぞれ使用される材料によっても異なることがあり、しかも引用例1には、色調を変えたことによる作用効果を伴う技術思想としての考案は記載されていないと主張する。

しかし、引用例1には、前示のとおり色調が異なるストローが提示されているから、色調の差異に基づく作用効果に関する明示の記載がないとしても、引用例考案1は、色調の差異による訂正後考案と同様の作用効果を当然奏するものと認められる。しかも、引用例1には、前示のとおり、その色調の差異が材料の相違等に由来するものであることなどが示唆されているわけでもないから、原告の上記主張は採用することができない。

したがって、原告の取消事由2は理由がなく、審決が、「本件訂正後における実用新案登録請求の範囲に記載されている事項により構成される考案は、引用例1、2に記載された各考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたもの」(審決書5頁17行~6頁1行)と判断したことに誤りはない。

3  以上のとおりであるから、原告の取消事由はいずれも理由がなく、その他審決に取り消すべき瑕疵はない。

よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

平成5年審判第11235号

審決

東京都港区芝大門1丁目13番9号

請求人 昭和電工株式会社

東京都港区芝大門1丁目13番9号 昭和電工株式会社内

代理人弁理士 寺田實

東京都港区芝大門1丁目13番9号 昭和電工株式会社内

代理人弁理士 矢口平

実用新案登録第1928120号「飲料容器中の飲料用の二段式伸縮自在なストロー」に関する訂正審判事件(平成6年12月14日請求公告、実用新案登録審判請求公告第325号)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

本件審判請求は、平成5年6月4日の請求であるから、平成5年法律第26号附則第4条の規定によりなおその効力を有するその改正前の実用新案法(以下、「旧実用新案法」という。」)を適用する。

[1]本件審判請求は、実用新案登録第1928120号(以下、「本件登録実用新案」という。)の明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり、すなわち下記(イ)および(ロ)のとおり訂正することを求めるものである。

(イ)実用新案登録請求の範囲「大径のパイプと、前記大径のパイプの中空部内に挿入された小径のパイプとよりなる飲料用合成樹脂製ストローにおいて、大径のパイプと小径のパイプの外観を夫々異なる色調にしたことを特徴とする飲料容器中の飲料用の二段式伸縮自在なストロー。」を「大径のパイプと、前記大径のパイプの中空部内に挿入された小径のパイプとよりなる飲料用ストローにおいて、大径のパイプと小径のパイプの外観を夫々異なる色調にしたことを特徴とする飲料容器中の飲料用の二段式伸縮自在なストロー。」と訂正。

(ロ)考案の詳細な説明に関する明細書(平成4年3月13日付け手続補正書)第6頁第14~15行(実公平3-131号公報の平成4年12月17日発行の実用新案法第13条で準用する特許法第64条の規定による補正の掲載、以下「公報」という、訂第4頁第21行)の「この飲料用ストローの材料としては、合成樹脂、紙などが挙げられる。」を「この飲料用ストローの材料は、合成樹脂である。」と訂正。

[2]これに対して、当審では、平成7年12月15日付けで、本件訂正後における実用新案登録請求の範囲に記載されている事項により構成される考案は、引用例1:「日本食糧新聞」昭和57年9月128日号(日本食糧新聞社発行、国立国会図書館所蔵)第6面、引用例2:実願昭56-139820号(開昭58-45483号)のマイクロフィルム公報に記載された各考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたもので、実用新案法第3条第2項の規定によって実用新案登録を受けることができないものであるから、本件訂正は、旧実用新案法第39条第3項の規定に適合しない、旨の訂正拒絶理由を通知した。

[3]本件の訂正事項について検討すると、前記(イ)は、実用新案登録請求の範囲の「飲料用ストロー」を「飲料用合成樹脂製ストロー」と訂正するものであるから、旧実用新案法第39条第1項第1号にいう実用新案登録請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、(ロ)は、実用新案登録請求の範囲の訂正に関連する事項の訂正に係るものと認められる。

本件登録実用新案の実用新案登録出願前に日本国内において頒布された刊行物と認められる引用例1には、伸縮自在のストローに関する記事が写真とともに記載されている。そして、引用例1には、「伸縮自在ストローの特徴は、一本のストローを径の大きいものと小さいものの半体二本に分けたこと。径の大きい方に小さい方を挿入しておき、使用時に挿入半体を引き出して普通のストローの長さにする。」旨の記載があり、また、写真のストローは、大径のストローと小径のストローの色が濃淡ないし異なる色を有すると認識できるものであると認められる。

本件訂正後における実用新案登録請求の範囲に記載されている事項により構成される考案と引用例1に記載された考案を対比すると、両者は、前者が合成樹脂製ストローであるのに対して、後者にはストローの材料に関しての記述がない点で相違し、その他の構成において一致すると認められる。

ところで、二段式伸縮自在なストローを合成樹脂製とすることは、引用例2に記載されているように一般的な事項であるから(引用例2の明細書第3頁第17~19行参照)、本件訂正後における実用新案登録請求の範囲に記載されている事項により構成される考案は、引用例1、2に記載された各考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたもめというべきであって、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものである。

[4]なお、請求人は、訂正拒絶理由に対して平成8年2月15日付け意見書を提出して、「引用例1の記事には色調については全く触れられていない。また、ストローが合成樹脂であることの記載もない。引用例1の写真は、昭和57年当時のいわゆるザラ紙上に印刷されたものであり、インクの粒子も粗であり、色調に関して問題意識をもって観察すればわずかに明暗を感ずるかも知れないが、撮影のライトによる陰影と感ずる程度のものである。引用例1の発行当時は当業者には明らかにそのような(ストローの色調の差)問題意識はなく、また引用例1におけるストローの説明記事から二段ストローであるという点に強い印象を受けてしまうから、写真に現れているわずかの明暗が色調の相違に由来しているものであると認識するまでに至らないのが普通であろう。つまり、この写真では、通常の人は内・外ストローの色調の相違は感じとらない、言い換えればこの写真は内・外ストローの色調を当業者に認識させ、あるいは感じさせる程度に現されていないと見るのが妥当と考える。…」(第2頁第22行~第3頁第4行)旨主張し、さらに、「引用例1の記載に、佐藤健二氏が昭和57年7月30日、8月24日にそれぞれ実用新案登録出願、意匠出願したとの記事がある。それは甲第5号証、甲第6号証に該当するものと思料される。これらいずれの出願においても、2色であることを伺わせる記載は全くない。」という。

そこでこれらの主張についても検討する。

まず、本件訂正後における実用新案登録請求の範囲にいう「異なる色調」との用語の意義は、考案の詳細な説明中の「上述の実施例のように、大径のパイプと小径のパイプを異なる色にする代りに、同一の色でその濃淡の異なるものを採用してもよい。更に一方のパイプは着色しないで、材料の色をそのまま生かし他方のみ着色することによっても異なる色の組合わせが可能になる。」(訂正明細書第5頁第16行~第6頁第1行、公報第4頁第12~14行)旨の記載を考慮すれば、同一の色であってもその色に濃淡がある場合をも含むものと解される。

次に、実用新案法第3条1項3号は、「実用新案登録出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された考案」としており、ここにおける「刊行物に記載された考案」とは、刊行物の記載から把握される考案をいい(刊行物の記載が明白な誤りでない限り)、本件についていえば、引用例1の写真からもっぱら把握されるところの考案をいうものと解される。その写真が掲載された当時にどのような内容の実用新案登録出願や意匠登録出願がなされたかという事実は、刊行物に記載された考案の認定を何ら左右することにはなり得ない。

そこで、あらためて引用例1の写真を見てみると、掲載されているストローは、内・外(大径のと小径)のストローは、色調が異なるか、少なくとも濃淡があると認識するのが通常であって、これが、請求人のいうようた、撮影のライトによる陰影と感ずる程度のもので内・外ストローの色調(濃淡)を当業者に認識させないものである、とは到底言い得ない。請求人の論拠は、独自の見解に基づくものであって採用することができない。

[5]そうすると、本件訂正後における実用新案登録請求の範囲に記載されている事項により構成される考案は、旧実用新案法第39条第3項の規定に適合しないものである。

よって、結論のとおり審決する。

平成8年3月18日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審物官 (略)

特許庁審判官 (略)

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